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第二話 洗濯する戦士 ルイズはこの使い魔のことが気に入らなかった。名前もそうだし、部屋に帰って話を聞いても 魔法とは何だ? ネオアルカディアは? 何でこんなに自然が? エリアゼロはどうなったのか?(ここでゼロという単語が出てきてもっといやになった) と相変わらず訳の分からないことを言い出し、 しまいには自分は違う世界から来て、そこには月もひとつしかないとか言い出した。 「もういいわ、あんたが頭のおかしい魔法も知らない田舎ものの平民だってことは分かったから。」 「平民?俺は人間じゃない、レプリロイドだ」 さすがにうんざりしてきた。魔法にけちをつけまわりの草木にけちをつけ月の数にけちをつけ、さらにゼロという名前で、 おまけに人間ということにまでけちをつけるのかこいつは。 「なにいってんのあんた。鏡見たこと無いの?いくら頭がおかしくてもそれぐらい分かるでしょう」 「俺は人型のレプリロイドだ。」 「そもそもレプリロイドってなによ?ぜんぜん訳わかんない。」 「いわゆるロボットといったほうが分かりやすいか。」 「どっちにしろわかんないわよ」 「なら、動く人形のようなものだ。」 「は?馬鹿にしてるの?人みたいによく動く人形なんてそうある分けないでしょ! そもそも人と人形の区別ぐらいつくわよ! もういいわ、あんたがまじめに話すつもりの無いのは分かったから! いいから本題に入るわよ。今からいうことをよく頭に入れなさい!私はあんたを召喚したご主人様なの、いい!」 「召喚?俺を召喚してどうしようっていうんだ?」 「もちろん使い魔として使えてもらうためよ。」 「用はお前のために働けということか。で、何をさせようって言うんだ?」 案外こいつは反発もせずに聞いてきた。やはり素直ではあるのかもしれない。 「使い魔の仕事といえば、まず私の目となり耳となることね。じゃあやってみましょうか」 ルイズはしゅうちゅうした。 さいのうがたりない。 なにもおきなかった。 ……何か聞こえたが気のせいだろう。自分は大器晩成なのだ。才能が無いわけじゃない。 そんなことを思いつつルイズは話を続けた。 「うーん、たまたま、いい、たまたまよ、うまくいかないみたいね。 ほかに秘薬の探索とかだけど、あんたそういうのって分かる?」 「分からん」 「っでしょうね。後は私の護衛だけど、まあ平民のあんたじゃ」 「わかった」 平民のくせに何を言うのかこいつは。鎧を着けているし傭兵なのかもしれないが 所詮平民がメイジに勝てるわけも無い。 「俺は戦うことしか能の無いレプリロイドだからな。お前を守れというのならそのために力を貸そう」 「……もういいわ、あんたが訳の分からないことしかいわないのはよく分かったから。 それよりも!おまえ、じゃないでしょ!いい!私を呼ぶときはごsy」 「分かった、ルイズ」 「じんさ……、ま、まあいいわ。それとせめて身の回りの世話をしなさい。掃除とか洗濯とか」 ルイズはゼロが護衛として戦えるということをまったく信じなかった。あまつさえ使用人のように扱った。 「わかった」 が、それにもゼロは素直に従った。 「じゃあ今日はもう遅いから着替えさせて」 そういうとなにも言わずルイズを着替えさせた。 「それと服はちゃんと洗濯して、朝はちゃんと起こしなさいよ。あとあんたはそこで寝なさい」 と床をさすとゼロはなにも言わずそこに行き壁にもたれた。本当に素直だ。 が、少し気になる。平民が貴族に従うのは当然とはいえいきなり呼び出されたのだ。 帰りたいと思ったりはしないのだろうか? 「ねえ、あんた、帰りたいとか思わないの?」 ふと、口に出ていた。 「……向こうでの戦いは終わった。もう俺にできることは少ない。 ここで俺を必要とするのならここに残ろう。かまわないか?」 ルイズは考える。はっきり行ってこいつは訳のわかんない平民だし名前はゼロだし正直こいつが使い魔なんていやだ。 しかしさしあたっては使い魔がいないと進級できるかも分からないし。 「まああんたはとりあえず必要よ、私のために働いてもらわないと困るし。 まあどっちにしろ戻す魔法なんて聞いたこと無いけど」 「そうか」 そういうとゼロは動かなくなった。 本当に少しも動かないので少し気になったが召喚したときもそうだったし気にしないことにした。 それより、状況を説明させたり質問をしてきたとき以降はあまり喋らなかったなと思い、 こいつ無口なのかなと思いながらルイズは眠りについた。 翌日ゼロは洗濯物を持って歩いていた。が、洗濯場が分からない。ゼロは人影を見つけると声をかけた。 「おい」 声をかけられた少女、シエスタは困惑していた。 女子寮でいきなり男、それも鎧兜で武装した男に声をかけられたのだ。 「ええ、あ、あなたは?」 「俺はゼロ、ルイズの使い魔だ」 それで思い出す。確か昨日人が召喚されたとか言っていたはずだ。 「あ、申し訳ありません、私はここでメイドとして奉公させていただいてます、シエスタです。宜しくお願します。 それで、どういう御用でしょうか?」 「洗濯場を探している。場所を知らないか?」 「ああ、それならこちらになります。案内しますのでついてきてください」 「感謝する」 ゼロは洗濯場につくとすぐに洗濯を始めた。 かつても戦いが無いときは薪割りに草むしり(ゼロ4ミニゲーム参照)といったことをやっていたのだ。 このような雑用をすることに抵抗は無かった。 エネルギーの節約のため原始的な方法に頼ることも多かったためこの世界でも洗濯に難儀することも無い。 洗濯を終えるとシエスタと別れゼロは部屋へ戻っていった。 「おい、起きろ」 「うん……おはよって誰よあんた!……ってそういえば私が呼んだんだったわね。じゃあ着替えさせて」 そうして着替えを済ますとルイズは食事のために部屋を出た。 そしていやなやつに会った。 「あら、おはようルイズ」 「…おはよう。キュルケ」 「朝からしけた顔ねえー。で、それが噂の使い魔?」 「……そうよ」 「あっはっは!ほんとに人間なのね!すごいじゃない! 平民を呼んじゃうなんて、 ほんとすごいわ。さすがねー」 「う、うるさいわね!」 そしてキュルケは、ゼロのほうを見やる。。 「あら、こうしてみると意外といい男ね。特にその目が素敵。ねえ、あなたの名前は?」 ルイズはしまったと思った。名前なんて簡単に話題に上るようなことだ。 が、もう遅く 「ゼロだ」 と答えていた。その後も俺はレプリロイドだとか行っていたがキュルケはもう聞いてはいなかった。 「ゼロ?ほんとに?あっはっは!すごいじゃない! ゼロのルイズがよぶにはぴったりじゃない。 大成功ね、よかったわねぇルイズ」 どうしてなにも手を打っておかなかったのか?偽名でも名乗らせればよかったことじゃないのか。 が、もう遅い。いまさらそうしたところでキュルケがうれしそうにしゃっべってまわることだろう。 「あははっ、ああそうだ。あたしも昨日、使い魔を召喚したのよ。さあ、おいでフレイム。 キュルケが呼ぶのに答えて、部屋から赤トカゲ現れる。 赤く大きい体、燃える尻尾。ゼロは疑問を持った。 「こいつは生物なのか?」 「火竜山脈のサラマンダーよ~、好事家に見せたら値段なんかつかないわよ? こういうのこそ使い魔にふさわしいわよねぇ~」 「何よ、あてつけのつもり!」 その後もルイズとキュルケは騒いでいたがゼロは別のことを考えていた。 ルイズの話ではこの世界には科学が無い。強力なレプリロイドやメカニロイドも存在しない。 だがこのような生物が代わりに存在する。 もしそれらを敵に回すのなら今まで経験したものにも劣らない戦いになる可能性もある。 もっとこの世界について知らなければ、そう思った。 その後、食堂でルイズはゼロに対し、名前がゼロなのが気に食わないというだけの理由で、 粗末な食事を出すも 「俺はレプリロイドだ。食事は必要ない」 といわれ、 「なに強がってんのよ!いいわ、そのつもりならもう頭下げるまで一切食事抜きだから!!」 とさらに荒れることになった。
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第六十九話「あっ!ドラゴンもグリフォンも氷になった!!」 ミニ宇宙人ポール星人 隕石小珍獣ミーニン 凍結怪獣ガンダー 冷凍怪獣マーゴドン 登場 才人がふと目を開けると……自分が燃え盛る炎の中にいるのが分かった。 『な、何だこれ!? 俺は一体どうしたんだ……!』 仰天するものの、炎に囲まれているにも関わらず全く熱さを感じず、火傷もないことを すぐに把握した。しかも、自分の姿はグネグネと揺れ動いている。 『これは何事なんだ……?』 『地球人、ヒラガサイト! 聞こえているかね?』 戸惑う才人の目の前に、謎の三人の宇宙人のシルエットが現れる。手の平の上に乗ってしまいそうなほどに 異様に小さな体躯で、三角形状の頭部に直接手足が生えているような、見るからの異形だ。 才人はすぐに問う。 『お前たちは誰だ!』 『我々はポール星人! 過去に二度ばかり地球を氷詰めにしてやったことがある』 ポール星人。それはかつてウルトラ警備隊が冷凍怪獣ガンダーによって絶体絶命の危機に陥った際に、 隊員の一人が幻覚の中で目にしたという、ガンダーの黒幕の宇宙人だ。地球の氷河期は、このポール星人が 引き起こしたものだと彼らは語った。しかしその隊員が幻覚でしか目撃しておらず、実在の証拠が一つも ないので、その存在は大半の人間から疑われている。才人も噂でしか名前を聞いたことがなかった。 『お前たちも侵略が目的か!』 才人が問い詰めると、ポール星人は高笑いを発した。 『ハッハッハッ! そんな低俗なことに興味はない。我々の目的は、人間への挑戦! 我々はこの ハルケギニアに氷河時代を迎えさせる!』 『何だって!?』 『ハルケギニア上の生きとし生けるものが、全て氷の中に閉じ込められてしまうのだ! もちろん、お前さんも一緒だ! 寒い思いをするがいい!』 『そんなこと、ウルティメイトフォースゼロが許すものか!』 と告げる才人だが、ポール星人はまるで意に介さなかった。 『そんな奴らは、我々の敵ではない。言っただろう、我々は人間に挑戦するのだと!』 『どういうことだ!?』 『我々はかつて地球に三度目の氷河期をもたらそうとした。作戦は完璧だった! しかし我々は負けた。 ウルトラ戦士にではない。地球人の忍耐! 人間の持つ使命感に負けたのだ! だから、今度は人間に リベンジする! そう、地球人のヒラガサイト、君にだ!』 『な、何だって……!?』 唖然とする才人。自分が地球人の代表として、宇宙人と戦うのか。そんなことが出来るのか。 『我々の作戦は最早止めることは出来ない。ハルケギニアを氷の星にしたくなければ、我々の仕掛ける 勝負に勝ってみせることだな、ハッハッハッハッ……!』 そう言い残したポール星人の声がだんだんと遠ざかっていく。 『ま、待て! そんな勝手なことは……!』 許さない、と言いかけた才人だったが、それを言い放つだけの自信が今の彼にはなかった。 やがて炎の光景が薄れていき……。 「おいサイト! 起きやがれ! 朝だぜぇッ!」 グレンの大音量の呼び声によって、才人は目を開いた。 辺りを見回して状況を把握する。昨晩と同じ部屋の景色、同じベッド。どうやら先ほどまでのことは、 夢の中の出来事だったみたいだ。 「さぁ、シャキッとしな! 今日からお前の特訓を始めるぜ! すぐに支度するんだな! 朝食を忘れるなよ! 腹ペコのままじゃ力が出ねぇぞ!」 と言われて、才人は昨日決定したことを思い出した。今日から、グレンに鍛錬をつけてもらうことに なったのだった。とはいえ……。 「まだ外暗いじゃんかよ……」 「なーに言ってやがる! 特訓ってのは早起きしてやるもんだ!」 才人の反論はばっさりと切って捨て、グレンは彼を引っ張り出すように外へ連れていった。 「よぉし、まずは身体を動かすぜ。最初は腕立て百回からだ!」 グレンが何のためらいもなくそう言うので、才人は思わず目を見張った。 「いきなり百回!? そんな、俺始めたばっかりなんだから、もうちょっとお手柔らかに……」 「寝ぼけたこと言ってんじゃねぇっての! 苦しくなきゃ訓練じゃねぇよ!」 しかし才人の言い分が超熱血のグレンに通るはずもなく、否応なくやらされる羽目になった。 腕立て百回の後は腹筋や背筋、グレンに延々叱咤されての走り込みなど……。とにかく基礎訓練を みっちりとやらされた。朝早くから始めたにも関わらず、終わる頃には日が頭の天辺まで昇っていた。 さすがにへばる才人だが、グレンの熱血っぷりはそれで留まらなかった。 「サイト! へたれてる暇はねぇぞ! こんなのは準備運動だ! ここからが本番よ!」 「えぇ!?」 「本番は実戦形式の手合わせだぜ! さぁ、どこからでも掛かってこいや!」 自分に殴りかかってくるよう手招きするグレン。さすがに待ったをかける才人。 「ち、ちょっと! 素振りとか、技の稽古とかないの!? まだ戦い方を全然習ってないんだけど……! それに俺はこれでも剣士だから、素手の戦いを習っても……」 するとグレンはこう返答する。 「実戦で使える技ってぇのはな、戦いの中で身につくもんだ! それに戦いの基本は格闘だぜ! 剣も格闘が出来るようになってから様になるってもんよ!」 「ほんとかよ……」 「ほんとだっつぅの! 俺たちいつも殴り合いで訓練してるからな! 分かったらとっとと来な!」 とにもかくにも、手合わせをしなくてはいけないみたいだ。とんでもない人を先生にしてしまったと、 才人は若干後悔した。 それでもグレンに遮二無二殴りかかっていくが……拳を突き出す前に殴り返されて転倒した。 「そっちから手を出してくるのかよ!」 「あったり前だろぉ!? 殴られるのを待ってる奴なんかいるかよ! さぁ、一発やられただけで 寝転んでんじゃねぇぜ! これがホントの戦いだったらお前は死んでるぞ! とっとと立ち上がって もう一度掛かってこいやぁ!」 「くっそぉぉぉ……こうなりゃとことんやってやるぜッ!」 才人は半ば自棄になり、グレンに挑んでいってはあしらわれるを繰り返す羽目になった。 ぶつかり稽古の中で、グレンから様々な指摘をされる。 「駄目だ駄目だ、そんなへっぴり腰じゃ! 男はもっとどっしりと構えるもんだ! 腰から拳に力を乗せろッ!」 「俺の腕の動きだけを見るんじゃねぇ! 相手の全身を見るんだ! そうすりゃ敵の動きも見えてくる!」 「動きが見えたら、それに合わせて自分も動くようにするんだ! 一つの戦い方だけじゃ 到底やってけねぇぜ! やり方? そういうのは教わるんじゃなくて自分で感じ取るもんだぜぇッ!」 グレンのしごきは本当に辛く苦しいもので、才人はどんどんとフラフラになっていく。 「はぁ、はぁ……薄々分かってたけど、本当に無茶させるな……」 「こんなのゼロのしごきに比べりゃ遊びみたいなもんだぜ? あいつ人と手首をつないだ状態で 崖登りさせたりとかするからな!」 「えっマジ!?」 ゼロの意外な一面を知ったりしながらも、才人は殴り合いの中で次第に戦い方というものを その身に吸収していった。 また、グレンは稽古の最中に、戦いに重要なことも教えてくれた。 「いいか、戦いで大事なのはいくつかあるが、一番は勢いだぜ! どんな奴が敵だろうと、 勢いのある方が戦いで勝つッ!」 「ほ、本当なのか……?」 「マジだぜ! 戦いには流れってもんが確かにあるのよ。その流れを掴んで勢いを出せれば、 多少強引にでも相手をねじ伏せられる! 逆にどんな力を持ってようと、勢いがない奴は 相手に押されちまう! どんな時も勢いを止めないことを忘れるなッ!」 手合わせという名の殴り合いは、小休止を挟みながらも夜遅くまで続いた。日が完全に 暮れた頃になって初めて才人は解放された。 「よぉし、今日はここまでにしようか。夜はしっかりと休んで体力を戻すんだぜ。明日も 朝早くから始めるからな!」 「あ、ありがとうございましたぁ……」 すっかりグロッキーの才人だが、礼を言うことだけはどうにか出来た。 汗だくの才人に、タオルが差し出された。 「使って」 タオルを持っているのはティファニアだった。上半身裸の才人を見るのが恥ずかしいのか、 頬を染めて横を向いている。 「ありがとう」 タオルを受け取って身体を拭く才人に、ティファニアが話しかける。 「特訓をしてるところ、何度か見学したけど……あの人、ほんとに厳しいのね。ああいうのを、 鬼教官って言うのかしら」 「そうだね。でも、お陰で自分がすごい早さで強くなってるような気がするよ。そこは感謝しなきゃな」 と語る才人の顔をまじまじと見つめるティファニア。 「どうしたの?」 「サイト……どうしてそんなに頑張れるの? あの人の課す特訓、いくら何でも無茶苦茶だわ。 一日中殴り合いさせるなんて……。わたしにはとても無理。いいえ、大の男の人でも根を上げる くらいだと思う。それなのに、あなたのどこからそんな力が湧いてくるの?」 その質問に、才人はしばし考えた後、次のように答えた。 「尊敬する仲間の頑張るところを、ずっと近くで見てたからかな……」 「仲間?」 「ああ。今は……側にはいないんだけどな、俺にはとても頼れる仲間がいるんだ。その人は、 どんな絶望的な逆境に置かれても、絶対に諦めることはなかった。そして懸命に戦い続けることで、 何度も奇跡の逆転を掴み取ってた。その後ろ姿を見てて、あの人みたいになりたいと心の底から 思ってるから……俺も、頑張らなきゃって思いが湧いて出てくるんだよ」 そう語る才人を、ティファニアは感銘を覚えたように見つめる。 「あなたって、偉いのね」 「こんなの、偉くなんてねえよ。単なる憧れさ」 「その思いでどんなに苦しくても頑張れてるじゃない。偉いわ。わたしね……」 ティファニアは、言葉を選ぶように、ゆっくりと言った。 「わたし、何かを一生懸命に頑張ったことってなかった。やりたいことはいっぱいあるはずなのに、 ただぼんやりと災いのない場所で暮らしてただけ」 「いいんじゃないの。大変だったんだから」 「ううん。それはなんか、逃げてるって気がする」 ティファニアは才人の手を握った。 「ありがとうサイト。わたし、もっといろんなものが見てみたくなった。昔住んでたお屋敷と……、 この村のことしか知らないから、まずは世界を見てみたい。世界って、いやなことばかりじゃない。 楽しいことも、素敵なこともきっとあるんじゃないかって……。あなたを見てたら、そう思うようになったわ」 才人は顔を赤らめた。 「ねえ、お友だちになってくれる? わたしのはじめての……、お友だち」 「いいよ」 「あなたが村を出るときには、記憶を消そうと思っていたけど……、消さない。お友だちにはずっと 覚えておいて欲しいもの」 「そっか」 二人は友情の誓いを結び合い、夕食を取ることにした。しかしその寸前、ふと才人は頭をひねる。 「そういえば……何かを忘れてるような気が……」 グレンの非常に厳しい訓練の中で、才人の頭からは今朝見た夢の内容がすっかりと飛んでしまっていた。 才人の特訓は三日間、ひたすら殴り合う形で続いた。才人にとっては地獄の責め苦が生ぬるく 思えるような過酷な時間であったが、グレンがつきっきりで指導し続けてくれたことで、 たった三日の中でめきめきと力をつけていった。 そして特訓の中で、グレンは才人にこんなことを聞いていた。 「なぁサイト、お前俺の旅についてきたいって言ったけど、ルイズの嬢ちゃんのところに 戻るつもりはほんとにないのか?」 「え?」 聞かれた才人は、ややうつむきながら肯定する。 「ああ……。俺はもうあいつの使い魔じゃないし、ゼロに変身も出来ないしな……。たとえどんなに 鍛えたところで、巨大怪獣や宇宙人はもちろん、ただの人間じゃメイジにもてんで敵わないだろ」 才人はそう思っていた。ギーシュ並みの素人ならともかく、ワルドのような本職の戦士のメイジには、 魔法という大きな武器が相手にある以上は、ルイズを守りながら戦うなんて無理だ。 「ルイズに敵が多い以上、あいつの足を引っ張る訳にはいかないんだよ……」 と言うと、グレンは真顔でこう告げてきた。 「そいつは違うだろ」 「え……?」 「力がどうとか、そういうことじゃねぇ。要はお前がどうしたいかっていう気持ちの問題だろうが。 お前、ほんとにこのまんまルイズに会わず終いでいいのか? きっと後悔すると思うぜ」 「そんな、気持ちがあったところで……」 「いいや、物事の一番大事なもんは、他ならぬ気持ちだぜ。どんな力があろうと、何の気持ちも ない奴には何にも始められねぇし、何にも成し遂げられねぇ。力がないから出来ねぇっていうのは、 どんなに言い繕っても甘えの言い訳だって俺は思うな」 「……」 「強い気持ちがありゃあ、何だってやれるはずだぜ」 そう説得された才人は、自分の本当にしたいことを考え直した。 しかし、その時には答えは出てこなかった。 そして四日目の朝……事件は起こった。 「は……はっくしょんッ! うぅ、寒ッ!」 今日も今日とて朝早くから特訓に励もうとした才人とグレンだったが、今日ばかりはそれは出来なかった。 何故なら、家の外に猛吹雪が吹き荒れているからだ。 「テファお姉ちゃん……寒い……」 「キュウ……」 「みんな、しっかり……!」 部屋にはウエストウッド村中の子供たちが集まっていた。ミーニンを中心におしくらまんじゅうのように 固まり、ありったけの毛布にくるまって暖を取ろうとしている。しかしそこまでやっても、子供には 耐えがたいほどの寒波が襲っているのだ。 「くっそぅ、どれだけ薪をくべても全然足りねぇぜ!」 グレンが暖炉に薪を放り続けて火力を強めているが、それでも寒さを追いやることは出来ない。 それどころか、家自体が吹雪の前に吹き飛んでしまいそうであった。天井がミシミシ音を立てる毎に、 子供たちが怯える。 「おかしいわ……いくら冬だからって、この時期にこんな大きな吹雪が発生するなんて……」 「そうか。異常気象って奴だな……」 ティファニアのひと言に、才人が深刻な顔でつぶやいた。雪山でも吹雪に遭遇したが、 今外で起きているこれは、それを上回るほどの異常な規模であった。 グレンも才人の意見に同意する。 「こいつはただごとじゃねぇぜ……昨日までは荒天の気配なんて全然なかったのに、こんなことに なるなんざ。何か原因があると思うな」 「でも原因ったって、外は真っ暗で何も見えないし……。デルフ、何か見えないか?」 「無茶言うなよ。伝説の剣たって、透視が出来る訳じゃねえんだ」 グレン、才人、デルフリンガーは窓から外を眺めるが、太陽の光は完全に閉ざされているので、 全く遠くが見通せない。しかし、 「……いや待った。今何か、変な音が聞こえなかったか?」 「確かに、風の音に紛れて何かが聞こえた気がするな。何かの動物のうなり声みてぇな……」 デルフリンガーの問いかけに、グレンが重々しい表情でうなずいた。 すると彼らの会話に合わせたかのように、吹雪が弱まって視界が開けていく。……いや、 この急激な天候の変化は不自然だ。まるで、「意図的に視界を開けている」ような……。 「プップロオオオオオオ!」 そして明らかに風と雪の音ではない音が、才人やティファニアたちの耳にもはっきりと届いた。 鳥とも、獣ともつかない異様な鳴き声だ。 「わああああッ!」 「お姉ちゃん、怖いッ!」 子供たちはますます怖がり、ティファニアが懸命に慰めている。 一方で窓の外の景色を覗く才人たちの目に、アルビオンの大地を覆い尽くした雪原の上に、 巨大生物がそそり立っている光景が飛び込んできた。 「プップロオオオオオオ!」 「あ、あいつは!!」 驚愕する才人。雪原の大怪獣……カタツムリのように突き出た目玉、たらこのような唇、 逆三角形状の翼、ドリル状の指を持ったその容姿は、凍結怪獣ガンダーのものであった。 ガンダーには吹雪を起こす能力がある。この異常気象の原因は、奴に相違ないだろう。 そしてガンダーといえば、あのポール星人と同時に現れ、ポール星人が操っていたという怪獣。 ということは、あの夢はただの夢ではなかったのだ! これはポール星人による、才人への挑戦なのだ! 「プップロオオオオオオ!」 荒れ狂う吹雪の中に仁王立ちするガンダーの姿を、各国の竜騎士、魔法騎士で構成された 混成部隊も確認していた。折しも今は戦争後の調停を執り行う諸国会議の最中。しかし突然 アルビオン全土を覆う規模の異常な猛吹雪が発生したので、急遽原因を究明する調査団が 結成されたのだった。 「やはり怪獣の仕業だったか……。ハルケギニア諸国の王が一堂に会されたこの時期に、 これ以上の狼藉は許さんぞ!」 トリステインの部隊の隊長が早速、部下たちに攻撃の合図を出した。自分たちだけの力で 怪獣を倒すことで、会議でも有利になろうという魂胆も含まれた決断だった。幸い、万一の時に 備えて対怪獣用兵器を用意してきている。 「如何にも火に弱そうじゃないか。この特製火石をお見舞いしてやる!」 グリフォンに跨った騎士二名が、改造ベムスターにも使用した巨大火石を運んできた。 それをガンダーの頭部に落として炸裂させ、一気に仕留める算段だ。 しかしその時、騎士たちに向けて一層強烈な冷気が襲いかかってきた! 騎士たちがみるみる内に 凍りついていく。 「ぐわぁぁぁぁッ!? な、何事だ!?」 ガンダーの反撃か。いや、それは違う。ガンダーはそっぽを向いているではないか。それに冷気は 別方向から飛んできている。 慌てて振り返った騎士たちは、冷気を放出している犯人の姿を目撃した。 「ガオオオオオオオオ!」 真っ白い毛で全身を覆った、翼の生えたマンモスのような怪獣。それは恐るべき大怪獣マーゴドンであった! 冷凍怪獣の中では最大級の能力の高さを誇り、いくつもの惑星を氷に閉ざして生物を死滅させた、まさしく 悪魔の如き怪獣なのだ! 「ほ、他にも怪獣がいたのか!」 マーゴドンは全身から冷気を噴出している。その冷気が騎士たちを纏めて窮地に追いやる! 「ぐわああああぁぁぁぁぁッ! こ、このままでは全滅だ! 奴に火石を食らわせろぉ!」 隊長が苦しみながらも指示を出したが、それは叶わなかった。 「だ、駄目です! 火石まで凍りついて、起爆できませんッ!」 「そ、そんな馬鹿な!? わあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」 猛烈な冷凍ガスを前にして、騎士たちは抗うことすら出来ずに凍結していく。騎士だけではない。 ドラゴンも、グリフォンもたちまちの内に凍りつき、雪に覆われた大地に向けて真っ逆さまに転落していった。 ハルケギニア各国の精鋭部隊が、たった一瞬の内に全滅してしまったのだった。 恐るべきポール星人の挑戦! ガンダーの、マーゴドンの冷たき脅威! アルビオンは、 いやハルケギニアそのものが、氷河期の危機に見舞われたのだ! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第六十七話「ハーフエルフの娘」 隕石小珍獣ミーニン 悪質宇宙人レギュラン星人 登場 入室してきた金髪の少女へと顔を上げた才人は、途端に硬直した。彼女の美貌に……容姿に、 思わず心を奪われてしまったのであった。少女の顔立ちは、宇宙一美しいと言われる 怪獣ローランもかくやというほどだった。 しかしそれ以上に目を引くところが、胸であった。何という大きさであろうか! 才人は生涯に これほど大きな女性の胸というのは見たことがなかった。魔法学院一と謳われるキュルケ以上。 たとえばルイズとは、最早比べることすらおこがましい。これぞ大怪獣サイズだ。 「ば……バスト・レヴォリューション!?」 才人はそんなことまで無意識下に叫んでいた。だがそれで少女がビクリと震え上がった。 怖がらせてしまったか。 「ほ、本当に大丈夫? さっきから変なこと言ってるけど……」 「あ、ああいや、大丈夫だよ。今直面してる現実に色々と驚いただけだから」 適当にごまかした才人はベッドから起き上がろうとする。しかし大分長いこと眠っていて、 身体がなまったからか、ふらついて倒れそうになる。 「わわッ……!?」 「あ、危ない!」 傾いた身体を、少女が受け止めてくれた。その際の衝撃で、少女の金色の髪がはだけて、 隠れていた耳が露わになった。 ツンと尖っていて、見慣れない形だ。物珍しさから才人が凝視すると、少女は慌てて自分の耳を両手で隠した。 「ご、ごめんなさい」 「え?」 「でも、安心して。危害をくわえたり、しないから」 何を言われているのかよく分からなかった。もしかして、自分が怖がっているとでも思われたか。 「違う違う。あまり見ない形の耳だから、つい見つめちゃって」 その言葉で、少女は何故か呆気にとられる。 「……ほんとうに、驚いていないの? 恐くないの?」 聞き返され、才人は肯定する。少し耳が尖っているから、何だというのか。様々な異形の 宇宙人を見てきた身からしたら、そんなのは誤差みたいなものだ。 少女はほっとしたような顔になった。 「エルフを恐がらない人なんて、珍しいわ」 「エルフ?」 聞いたことのある名前だった。確か、ハルケギニアの“東方”に住むという種族の名前だったはずだ。 凶暴で、それこそ怪獣と同じくらいに恐れられているということだったが……それと目の前の少女は とてもではないが結びつかない。 「そう、エルフ。わたしは“混じりもの”だけど……」 自嘲気味につぶやく少女。何やら複雑な事情を抱えているみたいだが、初対面でいきなり 根掘り葉掘り聞くのは図々しい。 そこで才人は、まず自己紹介する。 「礼が遅くなったけれど、助けてくれてありがとう。俺の名前は平賀才人。君は?」 「わたしはティファニア。呼びにくかったら、テファでかまわないわ」 お互い名乗ったところで、さっきの小怪獣が舞い戻ってきた。 「キューキュウー」 「おいおい、もっと優しく運んでくれよ。折れたりはしねえけど、振り落とされるのは気分が いいもんじゃねえからな」 小怪獣はデルフリンガーを抱えていた。 「デルフ!」 「いよぉ相棒……。やっと目が覚めたか。よかったよかった」 「ミーニン、サイトの剣を持ってきてくれたのね。ありがとう」 「キュー」 小怪獣の頭をなでるティファニアに、才人はその怪獣について尋ねる。 「そのミーニンっていう生き物は、ここで飼ってるの?」 「ええ。最近、近くの森の中でうろうろしてるのを子供たちが見つけて、連れてきてね。 見たこともない生き物だから初めはビックリしたけれど、すごく大人しいからそのまま置いてるの。 今では子供たちの良いお友達よ」 「キュッ」 ティファニアはミーニンをそう紹介した。 それからデルフリンガーとティファニアが、才人が意識を失っている間のことを説明してくれた。 限りなく死んでいた才人をデルフリンガーが能力で運び、そこを偶然ティファニアが発見。 先住魔法の力が込められた指輪の最後の一回を使い、才人の命をギリギリのところで復活させたこと。 そのことに才人は、心の底から感謝しきりだった。 しかし、何かお礼がしたいところだが……その前に、自分はとんでもない問題にぶつかっているのであった。 「デルフ、大変なんだよ! 左手のルーンが消えちまってるんだ! これってどういうことなんだ!?」 先ほど確認した通り、左手の甲には確かにあったはずのルーンが、跡形もなく消えている。 それについてデルフリンガーは、こう説明した。 「使い魔の契約が外れちまった理由……そいつはやっぱ、相棒が一度死んだからだろうさね。 使い魔は死ぬとルーンは消えるんだ」 「でも、俺は生き返ったんだぜ。ルーンも復活しないのか?」 「先住の魔法のことは、メイジの扱う魔法じゃ想定外だ。そういう機能はないんだろうね」 「自動で戻ったりはしないってことか。それじゃあ……もう一度契約したらいいんじゃないか?」 「おすすめはしないね。メイジは使い魔が死ねば、次の使い魔を召喚できるが……使い魔にとって、 “契約”は一生もんだ。生きてる状態で“契約が外れる”ってことがまずありえねえ。そんなわけで、 メイジと二回目の契約をした使い魔の存在なんか聞いたことねえし、やっちまったら、そいつの身体に 何が起こるかわからねえよ」 思った以上に難しい問題のようだ……。サイトが重い顔をしていると、二人の話を端から 聞いていたティファニアが目をパチクリさせた。 「人が、使い魔……? そんな話、聞いたこともないわ。サイト、どういうことなの?」 「あッ……」 回答に窮する才人。そのことを説明しようとすれば、話が『虚無』に行き着く恐れが大だ。 さすがにティファニアを自分たちの事情には巻き込めない。 「えっと、その……色々込み入ったことがあってさ……おいそれと教えられることじゃないんだよ。ごめんな……」 仕方なく、無難にごまかすことにした。幸い、ティファニアはそれ以上突っ込んでこなかった。 「そう……仕方ないわよね。人には秘密の一つや二つ、あるものだもの。……わたしには 聞かせられらいことがあるのなら、しばらく席を外すから、その間に話し合ってちょうだい」 それどころか気を利かせて、ミーニンを連れて退室していった。才人は彼女の後ろ姿へ、 小さくお礼を言った。 「それでなんだけど、デルフ……もう一つ、大変なことがあるんだ……」 「わかってるぜ。その左腕の腕輪……もう一人の相棒のことだろ」 力なくうなずく才人。正直、ガンダールヴのルーンが消えたことよりも衝撃の大きなことであった。 ゼロが、目を覚ます気配がないのだ。 「ゼロ、どうしちまったんだろう……。どうして俺が目覚めたのに、ゼロは眠ったままなんだ? おかしいじゃないか……」 「さすがにそこまではわからんね。ただ……」 「ただ?」 「……あの嬢ちゃんの指輪に残ってた魔力は、一人分だけだった。だから下手したら……」 デルフリンガーの言葉の先を、才人は青い顔でさえぎる。 「そんな馬鹿な! 俺とゼロは一心同体なんだ! 他ならぬゼロがそう言ったんだ! だから…… 俺だけが助かったなんてこと、あるもんか!」 「だから、もしかしたらって話だよ。単にもう一人の相棒は、まだ力が戻ってねえだけってことも 考えられらぁ。何せすげえ決着のつけ方だったからな。あんなん、誰にも真似できねえや」 「……ゼロ……」 才人はひたすらに、ゼロの身を案じる。 偉大なる勇士、ウルトラマンゼロ。思えば、自分が勇気を持って戦えたのは、ずっと彼が 側にいたからかもしれない。自分が見守られていることを実感していることで、ただの高校生だった 自分が戦場に立てたのかも……。そのゼロがいない今……ガンダールヴでもなくなった自分に、 どれだけの価値があるのだろうか。 一人で暗い気分になっていると、窓の方から聞き覚えのある声が聞こえた。 『ああ……! やっと見つけました……!』 よく聞き慣れた、爽やかな雰囲気の声音。振り返れば、窓のガラスに銀色の戦士の姿が映っている。 「ミラーナイト!」 言うまでもなく、ミラーナイトだ。彼は才人の姿を確かめ、非常に安堵している様子であった。 『よかった……本当によかった……! ずっと捜してたのですよ……! サイト、あなたが 生きてて何よりです……。本当に犠牲になってたなら、私たちはどう償えばよかったのか……』 かなり興奮しているようだったが、ミラーナイトは呼吸を整えて落ち着く。それから、才人へ呼びかけた。 『さぁ、サイト、皆の元まで帰りましょう。皆、あなたが死んでしまったのではないかと心配してるんですよ。 特にルイズがひどく落ち込んでて……。しかし、あなたが見つかった以上はそれも終わりです。 皆を安心させてあげましょう』 だが、才人はそれに応じることが出来なかった。 「ミラーナイト、ごめん……。わざわざ捜してもらったのに……今は、それは出来ないよ……」 『え? ど、どうしてです? そういえば、何やら様子がおかしいですが、もしかして何かあったのでしょうか……?』 心配して尋ねるミラーナイトに、才人は今の自分の状態を打ち明けた。そしてうつむき気味に なりながらつぶやく。 「今の俺が帰ったところで、何が出来る? 何も出来ない……。俺はもうガンダールヴでも、 ウルトラマンでもない、ただの人間に逆戻りしたんだ……。こんなんじゃ、また敵が現れた時に 誰も守れない。帰っても、ルイズをガッカリさせるだけだよ……」 『……』 ミラーナイトは何か言いかけたが、今の才人には何を言い聞かせてもどうしようもないと 判じたのか、口に出すことはなかった。 『……分かりました。サイト、あなたにはしばらく気持ちを整理する時間が必要みたいですね。 では今日は、私はこのまま引き上げます。ルイズたちにも、あなたを見つけたということは話しません』 でも、とつけ加えるミラーナイト。 『ジャンボットやグレンファイヤーには伝えますよ。あの二人も私と同じように、あなたのことを 捜し続けてますので』 「うん、分かった。無理言ってすまないな……」 『……ゼロが目覚める時、そしてあなたが本当の意味で元気になる時が早く来ることを、祈ってますよ』 その言葉を最後に、ガラスからミラーナイトの顔が消え失せた。 「……」 残された才人は、じっと無言のまま立ち尽くした。その背中からは、あまりにも大きな悲痛さが にじみ出ていた。 その翌日、才人は肉体的には完全に復調した。元々、命自体が消えかけていた状態で特に目立った 外傷はもらっていない。そのため回復が早かった。 世話にばかりなることに引け目を感じた才人は、何か出来ることをしようと手伝いを申し出た。 遠慮するティファニアを半ば強引に押し通して、今は薪割りを行っている。 「はぁ……」 しかし薪割りを行う才人は、ため息を吐いてばかりでかなりブルーだった。薪を割る手つきも、 かなりもたついている。斧を振り下ろしても、ガスッ、ガスッ、と薪に食い込んでばかりで、綺麗に割れない。 その手際の悪さも、彼が落ち込んでいる要因の一つだった。ガンダールヴのルーンがある状態で 斧を握れば、薪を割るくらいハイスピードでやってのけるはず。本当にその力を失ってしまったのだと いうことを実感してしまった。 「ほんとに、何の力もないただの人間に逆戻りしちまったんだな……」 「そうしょげるなよ、相棒。伝説じゃなくなっちまっても、相棒は相棒に変わりねえだろ? 少なくとも、俺にとっちゃそうだよ」 ため息を吐いてばかりの才人を、近くに立てかけたデルフリンガーが慰めた。すると才人が聞き返す。 「俺が、ガンダールヴじゃなくなっても、お前はいいのか? お前はガンダールヴの剣なんだろ?」 「いいさ。六千年も生きてきたんだ。俺にとっちゃあ、相棒との時間なんて一瞬みてえなもんさ」 「でも、ルイズはそうじゃねえんだよな」 「まあね。それにあの娘ッ子は現役の『虚無』の担い手だ。また何か問題が降りかかるってのは、 十分に考えられる」 「そういう時に、戦える力のない奴がいたって、邪魔なだけだよな……」 「まあ、間違っちゃあいねえな」 ヤプールは倒れた。しかしこのハルケギニアから悪の芽がなくなった訳ではない。別の魔の手が ルイズに目をつけることはあり得る話。その時に、ガンダールヴでもない自分が側にいたら むしろ足手纏いだ。それは忍びなさすぎる。 しかしルイズのところへ帰らないとしても、これからどうするべきか。時が来れば、地球には いつでも帰れるという心積もりでいたのだが、ゼロが目覚めない以上は帰る手段がない。 まさかこんなことになるなんて夢にも思っていなかったので、才人はすっかり途方に暮れていた。 「ゼロも一緒に目覚めてくれたら、少なくともこんな思いはしなくて済んだのに……って、 俺は本当にゼロ頼みだな、はは……」 自分一人では一歩も踏み出すことが出来ないことを自嘲しながら、次の薪を割ろうとする。 だが……切り株の上に置いたはずの薪が、綺麗さっぱりとなくなっていた。 「あれ?」 どこかに転がっていったか? と思って周りを見回すが、それらしいものはどこにもなかった。訝しむ才人。 「デルフ、確かに俺、ここに薪を置いたよな。どこに行ったか知らないか?」 「いや。見てなかった」 大層不思議がる才人だが、何かの記憶違いだと思い、気を取り直して次の薪へ手を伸ばす。 しかしその時、才人が掴もうとした薪にどこからか飛んできた光弾が当たり、一瞬にして 跡形もなく燃やし尽くした! 「!? 誰だッ!」 明確な異常事態だ。才人が振り返って叫ぶと、光弾の飛んできた方向の森の陰から、異形の シルエットが姿を現した。 『フハハハハハ! 貴様はウルトラマンゼロの変身者だなぁ~! こんなところで発見するとは 思わなかった!』 首があるべきところが三角錐になっているような、鈍色と紫色ののっぺらぼうの怪人。 ハルケギニアの生命体ではないとひと目で分かる容姿であった。 「宇宙人か!」 『如何にも! 私はレギュラン星人ヅヴォーカァ! 宇宙一の嫌われ者だぁ! ウルトラマンゼロの首は、 この私が頂く!』 レギュラン星人と名乗る宇宙人は堂々と宣言した。まさか今、宇宙人に狙われるとは思っていなかった 才人は激しく動揺するが、それを相手に悟られないようにするかのように身体の震えを抑え込んだ。 「ヤプールは倒れた! それなのに、まだハルケギニアを狙うつもりなのかよ!」 『当然だぁ! ヤプールが死に、宇宙人連合もまた分解したが、私はそんなものがなくともこの美しい星を 我が物にするつもりだった! むしろ競争相手が勝手にいなくなってラッキーというところだ!』 レギュラン星人は根っからの侵略者。ヤプールとは関係なしに、ハルケギニアを狙っているという。 しかもこんな時に限って、自分が狙われてしまうとは、と才人は己の不運を呪った。 『こんなに接近しても、ウルトラマンゼロの気配は微塵も感じられない。どうやら、お前だけが起きてて ゼロは力を取り戻していないようだな! ますます僥倖! ゼロが復活する前に、息の根を止めてくれよう! どうだぁ、私の悪賢さはぁ!』 しかも、ゼロが目覚めていないことまで知られてしまった。これでレギュラン星人は何があっても退いたりはしないだろう。 焦る才人。ミラーナイトたちを呼ぼうとしても、この距離だ。どう考えても相手の攻撃する方が早い。 カプセル怪獣も、先の戦いでの負傷があまりにも大きく、まだカプセルから出せない状態。丸裸も同然である。 いや、まだ己の肉体が残っている! 自分はともかく、せめてゼロの命は何としてでも守ろうと、 才人は自分の力で立ち向かう覚悟を固めた。 「おい、あんまり馬鹿にするなよ、レギュラン星人。ゼロの前に、この俺がいるぜ!」 精一杯の見得を切るが、レギュラン星人はむしろ大笑いした。 『グッハッハッハッハッ! ただの地球人風情が、このヅヴォーカァ様に勝てると思ってるのか? 思い上がりも甚だしいわ! グハハハハハ!』 「思い上がりかどうか……今に分からせてやるぜ!」 斧を投げ捨てた才人は、デルフリンガーへと持ち替える。しかしやはり、デルフリンガーを握っても ルーンがあった時のように身体はちっとも軽くならなかった。 「……相棒、無茶だ。今の相棒じゃ、勝ち目はねえよ。力の限り逃げる方がまだ助かる目がある」 デルフリンガーが警告する。しかし才人は引けなかった。 「ここで逃げたらテファたちが危ない。ゼロが起きてるなら……同じことを言うはずだぜ」 「相棒……」 「何。俺だって今までの戦いの間中、寝てた訳じゃないさ。宇宙最高の戦士の戦いぶりを、 すぐ側から見てきた。だから俺だって、いざとなりゃ戦えるはずだ!」 と、己に言い聞かせる才人。そう思わないことには、絶望で押し潰されてしまいそうだ。 「行くぞッ! うおおおぉぉぉぉぉぉッ!」 気合い一閃、才人が遮二無二突っ込んでいくが、 『ふんッ!』 レギュラン星人の放った光弾によって、デルフリンガーはあっさりと弾き飛ばされてしまった。 続く二発目が才人の足元に当たり、才人は衝撃で転倒してしまう。 「ぐぁッ!」 『口ほどにもない。想像したよりもはるかに弱いぞ。笑いすら起きんわ』 レギュラン星人は、嘲るを通り越して呆れ返っていた。 「く、くそぉ……」 仰向けに倒れたまま、悔しさに打ち震える才人。予想していなかった訳ではないが、本当に全く歯が立たない。 ゼロの力も、ガンダールヴの力もない自分が、本当にただの軟弱な高校生だという決定的な証拠を見せつけられた。 ガクガクと身を起こそうとする才人の腹を、レギュラン星人が踏みつける。 「がはッ!」 『あまりに張り合いのない終わり方だが、容赦はせん! 貴様はあの世でウルトラマンゼロに、 自分の弱さのせいで道連れにしたことを謝っておくんだな!』 押さえつけた才人を粉々にするだけの威力の光弾を、手の平に作り出すレギュラン星人。才人は最早逃げることも叶わない。 ああ、才人よ! そしてウルトラマンゼロよ! せっかく死の淵から生還する奇跡を手にしたというのに、 こんなにも早く死の世界へと押し戻されてしまうのか! だが、才人が助かる道はもうどこにも見当たらない! 才人の最期の瞬間が、もうすぐそこに迫ってきた! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編 「待て」 その言葉に、食堂が静まり返る―…と言うことはなく、 騒がしいままではあったが、その声は届いたようだった。 「……何だね君は」 ギーシュは顔を歪め、不機嫌な表情――顔が腫れているので、 口調からの推測だったが――と、不機嫌な口調で返した。 それに対しても平静を保ち、ブルーは言う。 「誰でも良いだろう」 「……そうか、君はたしか『ゼロ』のルイズが呼び出した平民だったな? 平民が僕に何のようだ」 「お前が悪い」 いや、実に簡潔な発言だった。 解りやすく、また同時に間違っていなかったため、 周囲の者達もその言葉に乗り、ギーシュを笑い始めた。 「そうだギーシュ!お前が悪い!」 「二股をかけてたのはお前だからな!」 「恋人が居るだけで許せんのに二股をかけるとはどういう事だギーシュ!?」 一人だけ暗い感情を隠してないものが居たような気もするが。 平手打ちを喰らい、華麗な裏拳を決められ、 周囲から笑われたギーシュは、瓶を拾っただけのメイドより、 自分が笑われる原因となったこの生意気な平民に怒りの矛先を向けることにした。 「君は貴族に対する礼儀を知らないようだな?」 「知った事じゃないな」 ブルーがそう返すと、 ギーシュは芝居がかった仕草で続ける。 こういうときでさえギーシュは格好を付けることを忘れない。 それは賞賛に値することだとは思える。 「フン、ならばこの僕が君に礼儀を教えてあげよう。 ヴェストリの広場に来たまえ!そこで平民と貴族の差を示してやる」 「別に構わん」 そう言うと出口へと歩き出す。 ギーシュの友人達がその後をついて行く。 震えていたシエスタが、暫く経ってから言う。 「あ、あなた……殺されちゃうわ。平民が貴族に逆らったら……」 「大丈夫だ」 そう言ったものの、シエスタは青白い顔をしながら走り去ってしまった。 それと入れ違いになるように、ルイズが近寄ってくる。 「ブルー!何してんのよ!?」 「……どうもヴェストリの広場とやらに行かなければいけないみたいだが」 相変わらず平静を保つブルーとは対照的に、 ルイズは激昂しているようだった。 「そうじゃなくて!何で決闘の約束なんてしてるのよ~!」 「決闘の約束だったのか?……まぁ、問題はないな」 そこで初めて決闘の約束をしたことに気付いたらしい。 その様子を見て少し呆れながらもルイズは続ける。 「あのね!……ちょっとこっち来なさい!」 途中で少し逡巡しながらも、ルイズはブルーの手をとって食堂から連れ出した。 間違いなく人の目が無い自分の部屋まで来てから、 ルイズは話し始める。 「……まぁ、この際だから決闘の約束の事には何にも言わないわ。 だけど、どうやってギーシュと戦うつもり!?あれでもメイジよ!」 「術を使えば――」 「ほいほい使うなって今朝方言ったでしょ!」 「……そうだったな」 「……どうするのよ」 二人とも黙り込む。 結構長い間沈黙を保っていたが、そのうちルイズが言う。 「今なら謝れば、許して貰えるかも」 「何で謝るんだ?」 「……それはそうだけど、謝らないと許してはくれないわよ」 その言葉を受けて、考え込むブルー。 またしばらくの時間が過ぎる。 が、ブルーは突然何かを閃く。 「要するに術を使ってないように見せれば良いんだな?」 「……え?そんなこと出来るの?」 「やり辛いことは確かだが、出来る筈だ」 ブルーは自信というよりは確信を持った口調で言い放った。 「諸君!決闘だ!」 ギーシュが両手を広げて叫ぶと、周囲から歓声が帰ってくる。 尚、顔はすでに治療済みである。 打撲ぐらいなら案外簡単に直せるのだろう。 「ギーシュが決闘するぞ!相手はルイズの使い魔だ!」 歓声に答えて、薔薇の造花を振ったり、 手を振り返しているギーシュに比べ、 ブルーは非常に落ち着いていた。 一通り歓声に答え終わったギーシュがブルーの方に向き直ると、 周りの観客にも聞こえるように語り始めた。 「まずは逃げずに来たことを褒めてやろうじゃないか、平民」 「逃げる必要もないな」 「……ふん、そんな口を利けるのも今の内だ!始めるぞ!」 ギーシュが薔薇の造花を振ると、 薔薇の花びらが宙に舞い、一体の女戦士の形をした銅像となった。 それがブルーの前に跪く。 「僕はメイジだ、だから当然魔法を使って戦う。 まさか文句は無いね?」 その言葉に応えるように、跪くように座っていたその銅像が立ち上がる。 「僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。 僕が青銅のゴーレム、『ワルキューレ』が君の相手をしよう」 それに対し、ブルーは右手を前に突き出し、言う。 「そうか、なら俺は――」 ~~~~ 「良いかルイズ。 使うのはたった二つの術だ。『剣』と『金貨』」 「……何よそれ?」 「見れば解る」 ~~~~ 「俺は手品師だ」 と言って、何も持っていなかった右手に『金貨』を現す。 その言葉と、その『金貨』を見て、ギーシュは思わず言ってしまう。 「……は?」 「だから手品を使って戦う。問題はないな?」 そして、今度は『金貨』を消してみせる。 周囲が黙り込む。 そして、次の瞬間には笑い出す。 「ふ……はは、あっはっは!」 「おい聞いたか!手品でメイジに挑むらしいぜあの平民は」 「こいつは笑えるな!」 ルイズと、後二人……いや、四人だけが冷静に見つめていた。 ギーシュはと言うと、馬鹿にされたと思ったらしい。 「ふざけるのもそこまでだ!」 と言い、ワルキューレをけしかける。 それに対し、ブルーは両手を服の内側にしまい込む。 次の瞬間、笑いが一気に止まる。 手品を使って戦うといった平民は、懐からアホみたいな量のナイフを取り出した。 「このナイフの束からどうやって逃れる?」 それにしてもこのブルーノリノリである。 ともかく、ブルーはその『剣』を全てギーシュに向かって投げつける振りをする。 実際は投げている振りをしているだけで、『剣』の力で飛ばしているのだが。 自分に向かってくるナイフを見て、ギーシュは叫ぶ。 「ワ、ワルキューレ!」 青銅のゴーレムが重そうな外見にそぐわぬほど俊敏な動きをみせ、 ナイフを身体で受け止める。 それはブルーが『剣』を投げるのを止めるまで続いた。 ギーシュは冷や汗をかきながらも、続けた。 「は、はは……少しは焦ったが、所詮は僕のワルキューレの敵ではないな」 そして、再び薔薇を振り、6体のワルキューレを作り出す。 これで既に作られて居たワルキューレを含め、7体となった。 「……だが、剣を使うとは、どうも本気のようだね! なら僕も本気で相手をしてあげようじゃないか! 七体全てのワルキューレを出そう!」 6体のワルキューレが、ブルーを囲むように近づいてくる。 一体はギーシュの近くに居た。 ナイフによる飛び道具を警戒しているのだろう。 ブルーも流石に焦り始める。 『剣』はギーシュに当たれば間違いなく致命傷を与えるが、 金属で出来たこのワルキューレとか言うゴーレムに対しては効果が薄い。 それが七体。ギーシュへの直接攻撃も警戒されている。 絶体絶命という奴であった。 (他の術を使えば――) が、辺りを見回してみる。 ワルキューレを全員倒せるような術では、周囲にいる生徒達にすら死者を出すだろう。 「アカデミー」とやらの事を抜きでも、それは出来そうにない。 一体一体倒していったとしても、途中で術力が切れそうである。 ワルキューレを一撃で倒せるような術では、術力の消耗が大きい。 青銅の拳に殴られ、吹き飛ばされる。 「ぐっ……」 倒れていると、近い位置にいたワルキューレが追撃をかけてきた。 ゴーレムの足が、ブルーの左腕の骨を踏み砕いた。 「……ッ!」 激痛に耐えかねて転がるが、結果的にそれで距離が取れたようだ。 だが、状況が好転したわけではない。 ギーシュは勝利者の余裕をたっぷりと含ませて言ってくる。 「ふん、不遜な口をきいていた割には大したことはなかったね。 もう終わらせるとしよう!」 ワルキューレ達が、一斉にブルーへと殺到した。 「オールド・オスマン」 扉の向こうから、ミス・ロングビルの声が聞こえてくる。 「なんじゃ?」 「ヴェストリの広場で、決闘が行われているようです。 大騒ぎになっていますが、生徒達に邪魔されて止めることが出来ません」 それを聞いて、オスマンは呆れと嘆きを表へ出した。 「全く、あの馬鹿共が。 暇があるならもっと有意義なことをしろってもんじゃ。 で、誰が暴れてるんだね?」 「一人はギーシュ・ド・グラモンです」 オスマンは記憶の糸をたどり、顔と名前を一致させる。 「あのグラモンの所の馬鹿息子か。 どうせ女がらみのトラブルじゃろ。で、相手は誰じゃ?」 「それが……メイジではなく、ミス・ヴァリエールの使い魔のようなのです」 オスマンは、隣にいたコルベールの方を向いた。 コルベールもまた、こっちを見返していた。 思うところは同じだったらしい。 外からの声が続けてくる。 「決闘を止めるために、『眠りの鐘』の使用許可を求めていますが……」 その声に対し、オスマンは即座に返した。 「アホウ。子供のケンカ如きで秘宝を使ってどうするんじゃ。 放っておきなさい」 「わかりました」 ミス・ロングビルが去っていく足音が聞こえた。 オスマンは再びコルベールと顔を見合わせると、杖を振った。 壁に掛けられた鏡に、広場の様子が映し出される。 ルイズは不安だった。 不安は、自らの使い魔が死にかけていると言うことだった。 どう考えてもそれが正しい。 しかも、何故か術を使おうとしない。 死にかけてまで、術を使わない理由にはならない。 自らの初めての成功の証が、消えてしまうことがこの上なく恐ろしかったのだ。 なので、目を閉じていた。 が、突如走った閃光が、閉じていた彼女の目を開かせる。 そこには、光り輝く剣を片手で構える使い魔の姿があった。 ブルーはある一つのことを閃いた。 ここに来てからというもの、やたらと閃いているような気がするが、 それは今はどうでも良い。丁度良い術があったのだ。 大規模ではなく他人を巻き込まず、 ワルキューレ達を一撃で倒せる訳ではないが、 防御も兼ね備えた術。 更に良いことに、術を使っているとは思われづらい。 左手は折れているようだったが、右手は動かせる。 問題はない。 フラッシュボムを上に投げる。 ここに来たときに大したものは持っていなかったが、 これはあった。 「《光の――」 詠唱を始めると同時に、閃光が走る。 その閃光を目を閉じたブルーは見る事はなかったが、 周囲の観客や、ギーシュの目を眩ますことは出来たようだ。 「―剣》!」 振り上げた右手に、《光の剣》を作り出す。 閃光によって、彼らは目を閉じた。 が、暫くして閃光は収まったことを知ると、彼らは目を開けた。 ボロボロにやられていた平民が、また剣を持っていた。 どうやらまだやるつもりらしい。 同じように閃光から立ち直ったギーシュが、芝居がかった口調で言う。 「……ふふ、褒めてあげよう。ここまでメイジに刃向かうとは、むしろ賞賛に値するね。 だが、もうろくに動けないだろう」 そして、再びワルキューレ達を操り始める。 ワルキューレ達が再び、ブルーめがけて突撃する。 (……なんだ?) ブルーは、自らの身体の異変を感じ取っていた。 身体が軽い。腕の痛みを感じない。 今、自分に襲いかかろうとしているワルキューレ達が遅く見える。 《光の剣》にはこのような効果はない。 だが、取り敢えず今は考えることは止め、目の前のゴーレムに向き直った。 身体を感じたままに動かす。 ワルキューレの拳を回転してかわし、そのまま斬る。 次に来たワルキューレを袈裟切りにする。 そして、返す刃の逆袈裟切りを身体ごと回転して繰り返し、残りの4体を切り捨てる。 ギーシュの眼が、驚愕に見開かれた。 「わ、ワルキューレッ!」 一瞬のうちに6体のワルキューレを斬られたギーシュが、 薔薇を振って巨大な剣を作り出し、残り一体となったゴーレムに持たせる。 ブルーはそれを見て、高く飛び上がった。 自分でも信じられないぐらい、高く飛んだので驚いたが、 落ち始めると、落下の力も加えて剣を振り下ろす。 迎撃する形で剣を振り上げたワルキューレを、大剣ごと縦に真っ二つにし、 その後剣を横に一閃し、ギーシュ……の持っていた薔薇だけを散らした。 腰を抜かして尻を付いたギーシュに、 ブルーは剣を突きつけて言った。 「まだ続けるか?」 その場に居た、本人を含めた誰もがギーシュの敗北を認めた。 前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編
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タルブの村、フーケ=マチルダは花京院と別れた後もそこに逗留していた。 ワルドにつけられた傷は深く、水魔法を日に何度か使っていくことでどうにか完治はしたものの元の状態には戻っていない。 リハビリが終わるまではしばらくゆっくりするつもりだったのだ。 しかし、そんなことを言ってられない事態になってしまった。 ある日のことだった。泊まっている村長の家で身体を動かし、どこにも違和感がないことを確かめていたら、大気を揺るがす爆発音が耳に突き刺さってきたのだ。 直後には地震のような震動も伝わってきた。 これは明らかに自然の現象ではない。彼女は村長たちと一緒に急ぎ外へ出た。 まず視界に入ったのは何隻もの船が落下している光景だった。 山肌にぶつかり黒煙を上げるもの、森に落下し暴虐の火を撒き散らかすもの、様々だったが、共通点があった。 偶然落ちたものではない。落されたのだ。 マチルダにとって予想外であった。ワルドが戦争をもうすぐ起こすといっていたことは覚えている。 しかし、まさか不可侵条約をあっさり破って仕掛けてくるとは夢にも思わなかったのだ。 「村長さん、村人を非難させな」 「ま、まさか、戦争なのですか?」 「そうさ。しかも………あいつらろくでもないことをするみたいだ」 上空から生まれて初めて見るような巨大な船が下りてくる。 それが錨を草原に下ろし停泊すると、何頭ものドラゴンが飛びたちまっすぐ村にやってきていた。 これは戦争だ。それも、相手は条約を破る歴史的に見てもそういない厚顔無恥。 礼儀や配慮など持ち合わせているはずがない。そんなやつが、敵に遠慮をするか? いいや、示威行為として、見せしめとして、盛大な炎を上げるだろう。 マチルダの勘は当たっていた。 ドラゴンは村の上空に飛来すると、家々に火を吹きかけたのだ。 「逃げな! 焼き殺されちまうよ!」 マチルダが叫ぶ間にも火は燃え移っていく。防衛の術がないためたったの三頭で十分だというのだろう。 空飛ぶ相手は厄介ではあるが、マチルダならば相手はできる。 だが、敵はこれだけではない。戦うというのならばその後ろとも事を構えなければならない。そんな覚悟はない。 こんなところで死ぬわけにはいかないのだ。 そのはずなのに、彼女は杖を持ち走っていた。 村の入り口では男連中が女子供を外に逃がしている。村長からの指示が早かったためにいまのところ怪我人はいない。 転んだ人がいるだけだ。しかし、彼らに向かって一頭のドラゴンが近づき鎌首をもたげ、火を吹いた。 メイジでもなんでもない平民が防ぐことはできない。 が、突然に地が盛り上がり彼らの盾となった。 火は村人に届くことはなかった。 ドラゴンに跨る兵士は背後に振り向いた。そこにはマチルダがいた。彼女が守ったのだ。 「貴様、メイジか」 「そうだよ。まったく、こんなことガラじゃないんだけどね」 「ならば我らレコン・キスタに入れ。貴様の腕なら相当な地位につけるぞ」 ため息をつく。 「あのさあ、なんであんたら馬鹿の一つ覚えみたいにそんなことしか言えないんだい?」 「ほう、何度か言われたことがあるのか。ならば、入るつもりはないのだな? このような状況においても」 マチルダの周囲には、前方のものを含めて三頭のドラゴンがいた。 なるほど、まともに戦って勝てるわけがない。だが、それならまともに戦わなければいいのだ。 マチルダは前に歩いた。 「入ると、決めたのか?」 「んなわけないでしょばか」 ドラゴンが背後からハエのように飛ばされた。村人を救った土、それをゴーレムに変えたのだ。 さらに間断いれずにもう一頭のドラゴンをも殴り飛ばす。 最後のやつは腕の届かないところに逃げ出してしまったが、船に戻すつもりはなかった。 マチルダは燃え盛る家の中から焦げた柱をゴーレムで取り出し、投げつけた。 「おおあたりっと。やれやれ。貧乏くじ引いちゃったわね」 そう言ってマチルダも村から出ようとしたところ、背後から爆発音がした。 自分以外にもメイジがいたのだろうかと思ったが、そうではないと徐々に知ることになった。 爆発は一度ではすまなかった。何度も起こった。マチルダは、それが魔法や自然で起こったものではないということもわかった。 爆発したところからは火も煙も昇ってこなかったからだ。 普通そんなことはありえない。 不審がるマチルダの耳に奇妙な声も聴こえてきていた。 「……………ジャネェー」 人間のものとは思えない、ひどく無機質な声。いや、音というべきである。 マチルダはゴーレムの頭に飛び乗って村を見回し、その声の主を見つけようとした。 一番近い家が爆発した。火は消し飛んだが、そこから彼女のほうに向かってくる小さな物体があった。 それが爆発を起こしたのか、確信はなかったがゴーレムに殴らせた。 つぶれた。そう思った瞬間、ゴーレムの腕が爆発して消えた。マチルダは爆風に飛ばされ地面に降り立った。 「今ノハ人間ジャネェー」 髑髏が付いた走る車、それがその声の主だった。 「……なんだいこりゃ」 それはゴーレムの胴体に突っ込み、圧倒的な質量を持つそれをあっさり爆発させて消し去った。 塵一つ残っていない。 マチルダの背筋が寒くなった。あんなものを食らえばどうなるかわかりきっているからだ。 どうかこっちに振り向かずどっかに行ってくれればと願ったが、そんなわけがなかった。 その子供のおもちゃのような車は彼女に振り向き、走ってきた。 「今ノハ人間ジャネェー」 「―――じょ、冗談じゃないよまったく!」 冗談じゃなかった。マチルダは生まれてこの方、これ以上の恐怖を味わったことがない。 ワルドはまだ人間だった。だから驕りと油断があり、隙を突くことができたのだ。 ところが今回の敵は己の意志というものが存在しない。そのため油断や驕りが生まれることもない。 ただただ自動的に爆破させているのだ。 それだけでなく自慢の巨大ゴーレムのパンチをものともせず、あっさりとこの世から消し去ってしまうほどの能力を持っている。 救いがあるとするならそれは一つ、空を飛べないことだ。 「これで飛行能力までついてたらって考えると、ぞっとしないね」 フライを使い、マチルダは恐ろしい敵から逃れることができていた。 しかし、そいつはマチルダの真下から離れようとはしない。 それを利用していっそアルビオンの船にぶつけてやろうとも考えたが、途中で殺されるか、そうされなくともどのみちなんらかの対抗策を用意されているに違いなかった。 やるだけ無駄である。しかし、ではどうする。 打撃は無意味、かといって魔法を使ってどうにかなるとは思えない。こいつは大火に突っ込んで爆発させまくったのだから。 ……どうしてわざわざ火の中に突っ込んでいったのか。 マチルダは村のことを思い出す。目の前の車は燃えている家を爆発させて回っていた。 それなのにいまはマチルダ自身を追ってきている。人間を狙っている、のは間違いない。 だが、識別する方法は視覚的なものではない。なにか、条件があるはずだ。 そうでなければ、車の近くに落ちたときに殺されている。 なぜあのときゴーレムに向かったのか。なぜ燃えている家を爆破させていたのか。 その理由は―――温度。 ゴーレムはドラゴンの火を浴びて熱せられていた。だから先に向かったのだ。 しかし、答えがわかったところで、どうだというのか。学院の宝物庫に匹敵する頑丈さをどうやって攻略するのか。 いや、それより、どうやってこの状況を脱するのか。 そのうち魔力は切れてしまう。そうなったら………… マチルダが悩んでいると、視界に数十人の軍勢が入ってきた。 彼らは恐らくここら一帯の領主であるアストン伯とその兵士たちだろう。 領土内に侵攻されたので黙っちゃおれんとばかりに出征してきたのだ。 その行為はすばらしいものだ。領民を捨てずに戦いにきたのは。 だが、彼女に言わせれば、それは勇気でもなんでもなく蛮勇である。確実に、死ぬ。 ノミが人間に勝てるか。 彼らはそのままマチルダのほうに近寄ってきた。車は距離があるからかまだ彼女の真下にいる。 「貴女に尋ねるが、村人たちはどうなった」 精悍な顔つきをした男だった。鎧の装飾からして伯爵だろう。 「みんな無事さ。家や田畑はあんなことになっちまったけどね。それより、あんまりこっちに近寄るんじゃないよ。あたしの真下にいるやつが村をあんなふうにしやがったんだ」 正確には違うが、こうでも言っておかなければ不用意に近づいて爆死してしまう。 余波にやられてはたまらないのだ。 ところが、いいのか悪いのか、この伯爵はモットとは大違い。 善人だった。 「わかった。なら、まずは貴女を助けよう」 伯爵がそう言うと、一人のメイジが詠唱を始め、よりにもよってファイアーボールを投げてきた。 突如生まれた高温、車はそれにまっすぐ向かい、爆発した。 「今ノハ人間ジャネェー」 「よ、余計なことを!」 車はマチルダ以外の温度に気づいてしまった。 馬、人間、よりどりみどりだ。 「逃げな! そいつは『ぶっ壊れ』ない!」 せっかくの警告を聞いちゃいなかった。一人の兵士が馬から下りて剣を叩きつける。 しかし、パキンとあっけにとられるほどの間抜けな音を立てて真ん中から折れてしまった。 そして、その無知な兵士はこの世から消えた。 マチルダは即座にフライを切った。すると重力の鎖に絡め取られ落ちていくがその最中に遠くへファイアーボールを投げ込んだ。 車はそちらに向かって走っていく。そして、爆発した。 「なんなのだあれは! 彼は一体どうなったのだ!」 「死んだんだよ。よくわかんないけど、あの車は温度が高いところに走って爆発するんだ。跡は残らない」 マチルダの話を聞いても伯爵はまだ半信半疑だったが、もう一度遠くに火をつけると車はそちらに向かっていき爆発した。 「……何者かの使い魔であるのか?」 「わかんないけど、その可能性はあるわね」 もしくは、花京院と同じスタンドか。これならもっと話を聞いておけばよかったと考えかけたが、いまはそんな場合ではなかった。 車は彼女らの方向に走ってきている。 また遠くに火を点けて遠ざける。 「尋ねるが、村人たちはいずこに」 「南の森。そっちに避難しているよ」 「そうか。皆のもの、あの魔物は私が引きつける。その間に村人たちを館へ誘導しろ」 「……正気かい?」 「無論。こういうときに殿を勤めるのがメイジである。貴女は逃げても構わんぞ」 「そういわれてハイハイ逃げられたらいいんだけどね」 「人がいいな。『土くれ』のフーケよ」 「ばれてたのかい。まったく、こんなのあたしのガラじゃないのに。 なんでこうも貧乏くじを引かされるのかね!」 マチルダはあちらこちらに火をつけて兵士たちのために時間を稼いだ。 アストン伯も協力してくれるが、いつまでもこんなことをしていられない。 そのうち精神力か体力が尽きてしまい世界からさよならだ。 「案はあるかい?」 「ある。極々簡単な方法がな」 「マジで? じゃあやってみなよ」 アストン伯は短く詠唱すると、車の前方に水を生み出した。そして、衝突した瞬間、がちがちに凍らせてしまったのである。 車はごろごろと残った勢いで転がったが、爆発するようなことはなかった。 マチルダは恐る恐る触れてみても分厚い氷に覆われているせいか爆発はしない。 たぶん、標的を抹殺するためにある程度近づく必要があり、それを温度で確かめるのだが、氷に覆われているためそれを感知できないのだろう。 「……機転が利くじゃないか」 「お褒めに預かり光栄だ。しかし、なにもかもが遅かったようだ」 二人の視線の先には、陣を広げ始めているアルビオンの軍隊が見えた。 元々数十人の軍勢など歯牙にもかけていない。使い魔かなにかがこのような事態になろうとどうだっていいのだ。 「一泡、吹かせてやりたいもんだね」 「まったくの同感だ。彼奴らは、罪なきものたちの命を軽々と奪おうとしたのだ。 貴族ではない。もはや蛮族である」 「ともかくいまは待ちだね。それしかできない」 「うむ。貴女も館に来るといい。どうせ盗むものは何もないが気落ちしないでくれたまえ。 いや、一つあったか。ものではないがな」 王宮ではレコン・キスタの侵略戦争に対して会議が進められていた。しかし、まったく進むことはない。 ただ情報が真偽に関わらず飛び交っているだけに 過ぎず、参加している誰もが内容を把握し切れていなかった。 確かなことは戦争が始まったこと、王女の婚姻が延期になったこと。 たったの二つだった。 その騒々しい会議室から離れた宮廷の中庭では、とうに魔法衛士隊が出陣の準備を終えていた。 ただ、状況が状況だけにすぐさま出ることはできないということを面々はわかっていた。 これがもし、周到な準備をしてからの『正々堂々』とした戦争であれば話は違っていただろうなと衛士の一人であるアニエスは思っていた。 そもそもグリフォン隊の隊長が裏切り者だと判明してからまだ半年もたっていない。 混乱は表面上治まっているに過ぎず、部隊の再編成はまったく進行していない。そこへ狙ったかのように、いや、狙って戦争だ。 このまま反抗せずに降参という可能性もある。 「困ったものだ。なあ、4」 『腹減った。干し肉くれ』 アニエスはため息をつき、話し相手の小さな人間らしきものに小さく切り分けた肉を与えた。 彼か彼女かの額にはあるルーンが刻まれており、見た目は使い魔のようであるため彼女は一応貴族連中に混じって隊に入ることはできた。だが、所詮平民であることには変わりない。 彼女は常に最前線で命を張らなければならない。 『さっきの話だけどよぉー、アニエス、たぶんお前の心配は無用だぜ』 「なぜだ?」 『そりゃあお前が不吉だからだよ。俺がついているんだぜ。安全なんてものとは程遠いさ。 なにせ、元の主人つうか本体だかいうやつはその不吉を嫌って俺を認めなかったぐらいだからな』 4は腹を抱えて笑った。 『ほれ見ろ。姫様がでてきたぜ』 彼の言うとおりだった。王女は中庭に出てきて出撃を伝え、自らもユニコーンに跨った。 『やっぱ俺がついてるから不吉だな。今度ばかりは死ぬかもしれないぜえ』 「死なない。死ねないからな」 ルイズはンドゥールと学院の玄関先で王宮からの馬車を待っていた。アンリエッタの結婚式に出るためである。 ちなみに、いまだに詔は完成していない。 はっきり言うと才能がないというのもあるがンドゥールが旅立ってから数日前、あの夜が明けるまですっかり忘れてしまっていたからだ。キュルケやギーシュには呆れられてしまい、それでも即興でなんとかしようとしたがどうにもならなかったので王女の側近であるマザリーニに助言を頂こく腹積もりであった。 しかし、それも結局無駄なことだった。 ンドゥールがピクリと妙な動きをした。ルイズがどうしたと尋ねる前に彼は地べたに座り込み、杖を耳に当てた。 「……なにか聴こえるのね」 「…………馬車が来るのであったな。ルイズ」 「ええ、そのはずよ」 「いま来ているのは馬一頭だ。それもなんらかの、喜ばしくない事態を伝えに来ている。限界以上の速度を出しているために馬が疲弊しているのが足音でわかった」 ルイズは目を細めて遠くを見やった。その数分後、彼の言ったとおり早馬が駆けてきた。乗っているのは服装から王宮のものであった。 その人物はルイズたちの前で馬を止めると焦った口調で学院長の居室を尋ねてきた。 教えられると一目散に走っていく。 「なにがあったのかしら。ンドゥール、聴ける?」 「ああ、できる。サイレントとかいう魔法は使う暇もないだろう」 それからしばらくし、ンドゥールはルイズに語った。 「宣戦布告、だそうだ。アルビオンが不可侵条約を破り攻め入ってきた。現在、タルブが占領されているそうだ」 シエスタの故郷であるとンドゥールは教えてやった。 「村は全焼だが村人は全員無事だが………そこに陣を張りラ・ロシェールで軍同士がにらみ合っているとのことだ。準備が早かったのか制空権を取られて難儀しているらしいな」 「つまり、戦争が始まった、のよね」 「そうだ」 ルイズはそれを聴き、頭が真っ白になってしまった。また戦争、また人が死ぬ。どうしてもアルビオンの人たちを思い出してしまう。 「なんなのよあいつら。なんでそんなに戦争が好きなのよ。なんでそんなに奪いたいのよ」 「さあな。よほど不足なのだろう。だから戦争など仕掛けるのだ」 ンドゥールが歩き出した。そのあとをルイズがついていく。 「どこへいくの?」 「花京院を起こす」 そう言って、彼が向かったのはコルベールの研究室であった。 花京院はそこで寝泊りしているのだ。 いきなり起こされすこし不機嫌であったが、事情を聴くと花京院ははっきり目が冴えたようだ。 すぐさまコルベールを叩き起こしてゼロ戦を動かせるようにしてもらった。 ガソリンをゼロ戦に注いでいる間にルイズが二人に尋ねる。 「これで、どこにいくつもりなの?」 「タルブの村だ。そうだろ?」 「ええ。なにせこのゼロ戦は譲り受けたとはいえ、あの村に骨をうずめた佐々木武雄さんの誇りであり魂だったんです。助けにいきますよ。君はどうするんだい?」 「シエスタには恩を受けている。命の、というわけではないが、放っておくわけにもいかん。 それに、あの村にはフーケだったかマチルダもいる。俺はアルビオンであいつに助けられ……てもないな。もともとあの場に残ったのはあいつが原因だったか。それでも、指を奪っておいてなにも復讐をされなかったのでな、ついでに助けにいくか」 「彼女はついでか。サポートはしてくださいよ。毎日操縦法を教えられていてもぶっつけ本番なんですから」 「わかっている」 二人はゼロ戦の風防を開いて乗り込もうとしたのだが、ンドゥールのマントが弱い力で引っ張られた。 「私も連れて行きなさい」 ルイズだった。 「……詰めれば三人で乗れるんじゃねー? ああ、久しぶりの発言がこれか」 なにかを諦めたような口調でデルフリンガーが言った。それはその通りではあるが、行き先に問題がある。 「なにをしにいくのかわかってるのか?」 「わかってるわ。わかってるからいくのよ。それに、あんたは私の使い魔。目の届かないところで勝手をされるわけにはいかないもの。それに、なんだかね、こう、根拠はないけどいけそうな気がするの」 「まあいいんじゃねお二人さんよ。嬢ちゃんが危なくなるような事態になったら相棒が責任もって守ればいいんだし」 「そうですね。大体危なくなるっていうときは僕たちも危ないんですから。 それじゃあ乗ってください。一度、元の場所で飛行機が墜落したことがあるので祈っててくださいね」 花京院が冗談気味に笑い操縦席に座った。その背後、元々無線機が詰め込まれていたスペースにンドゥールとルイズが座った。クッションが敷かれてあった。 それは、いつか二人でどこかに飛び立つからだろうとルイズは思い、少しだけ苦しくなった。 コルベールが前方から風を吹かせる。花京院は慎重にだが適切なスピードで作業をすすめていく。 ここ数日、彼は学院に来てからンドゥールに付きっ切りで操縦法を教えてもらっていた。 何度も何度も繰り返し行ってきた。 間違いはない。 ゼロ戦は、いま、再び空へと駆け上る。
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思い出せ、思い出すんだ。さっきまで何をしていたのか。 何時も通り仕事をしていたんだ。そして……鏡だ! 突然鏡が現れたんだ!私はそれに突っ込んでしまったんだ!そしていつの間にか 気絶してしまったんだ。 何ということだ。もっと慎重に行動するべきだった。銃の弾が惜しいからといって 安易に近づいてしまうとは…… 「いい加減聴きなさいよ!」 くそっ!さっきからなんだこの女は! いや、そうだ。今するべきことは状況の把握だ。 さっきからキンキンとうるさい少女に向き直る。 「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするの?」 突然誰かがいうと少女以外は笑い始めた。 「ちょ、ちょっと間違えただけよ!」 少女が怒鳴り返す。 「間違いって、ルイズはいっつもそうじゃん」 「さすがはゼロのルイズだ!」 周りが囃し立て笑い声がさらに大きくなる。 とりあえず目の前の少女はルイズというらしい。 「もう!あんた誰!どこの平民!」 彼女はさらに大きな声で私に怒鳴ってくる。相当怒っているらしい。 なんてうるさいんだ。だんだん冷静さが戻ってくる。 「私は吉良吉影、そしてここが何処どこだか教えてくれないか?混乱で頭が爆発しそうだよ」 「ミスタ・コルベール!」 彼女はさらに怒鳴る。すると周りの人垣が割れ中年の男性が現れる。 彼女はなにやら男性と話し始める。 しかし話しの内容はさっぱり理解できない召還だの使い魔だの儀式だの… 何かの宗教だろうか?そうすれば彼らの服などは理由がつく。黒魔術とかあんなのだ。 「でも平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません!」 彼女がそう言うと、また笑いが起こる。彼女が人垣を睨み付けるが笑いは止まらない。 男性は彼女に諭すように話しかける。そして私を指差し 「~~~彼には君の使い魔になってもらわなければな」 「そんな……」 彼女はガックリ肩を落とす。 理解できていることを総合するとどうやら私はルイズと呼ばれる彼女の使い魔というものになるらしい。 使い魔……語感から判断するに召使みたいなものか? そんなことを考えていると周りがまた五月蠅くなる。 ルイズが私を困った顔で見ている。 一体なんだ? 「ねぇ」 突然話しかけられる。まぁこっちも話しかけられたほうがありがたい。 「なんだ?」 早くここの詳しいことを聞かなくてはいけない。 「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんな事されるなんて、普通は一生ないんだから」 顔を顰める。彼女がなにを言いたいのか理解できない。彼女は目を瞑り手に持った杖を私の前で振るう。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、 我の使い魔となせ」杖を私の額に置くと私の顔を腕で引き寄せる。 「!?」 いきなりで反応できない。まだ混乱しているらしい。 そして私の唇とルイズの唇が重なった。 3へ
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ゼロの茨 1本目 ゼロの茨 2本目 ゼロの茨 3本目 ゼロの茨 4本目 ゼロの茨 5本目
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白銀と亀な使い魔-1 亀と白銀な使い魔-1 白銀と亀な使い魔-2 亀と白銀な使い魔-2 白銀と亀な使い魔-3 亀と白銀な使い魔-3 白銀と亀な使い魔-4 亀と白銀な使い魔-4 白銀と亀な使い魔-5 白銀と亀な使い魔-6 白銀と亀な使い魔-7 白銀と亀な使い魔-8 白銀と亀な使い魔-9 白銀と亀な使い魔-10 白銀と亀の使い魔-11 白銀と亀の使い魔-12 白銀と亀の使い魔-13 白銀と亀の使い魔-14 白銀と亀の使い魔-15 白銀と亀の使い魔-16 白銀と亀の使い魔-17 白銀と亀の使い魔-18 白銀と亀の使い魔-19 白銀と亀の使い魔-20 白銀と亀の使い魔-21 白銀と亀な使い魔外伝 『亀ナレフは平凡無事に憧れる』 亀ナレフは平凡無事に憧れる-1
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ドラゴンリーグ / ドラゴンバトル ドラゴンリーグ / ドラゴンバトルドラゴンリーグ 概要 チームバトル スケジュール タイムテーブルスケジュール タイムテーブル コマンドコンボボーナス 合体技 自動行動 ランキングランキング報酬 ドラゴンバトル観戦者 ドラゴンメダル交換所 コメント ドラゴンリーグ 概要 最強のチームを決めるリーグ戦。ドラゴンリーグXのメインイベントとなる。 開催期間中に他のチームとリーグ戦を行い、勝ち点を競って同エリア・同ランク内でのランキング1位を目指せ! 最終のリーグ内順位が高ければ高い程、「ドラゴンメダル」をより多く獲得できる。 ドラゴンメダルを貯めることで、各種素材や武具と交換する事が可能。 リーグ1位チームはドラゴンバトルに参加できる。 チームバトル スケジュール タイムテーブル スケジュール 1日4試合のチームバトルが行われる。 月曜日から金曜日にかけての戦いを2週間渡って行い、勝ち点とBPを競い合う。 同グループのチームと別グループのチームに当たるようになっており、その日程は以下の通り。 日曜日 月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日 土曜日 リーグ戦無し(ルビー戦) 対 同グループ 対 別グループ 対 同グループ 対 別グループ 対同グループ リーグ戦無し(ルビー戦) タイムテーブル 試合時間の割り振りと獲得できる勝ち点は以下の通りとなっている。 試合 所属グループ 開催時間 勝ち点 第1試合 全グループ 8 00-9 00 1点 第2試合 全グループ 12 00-13 00 2点 第3試合 グループ 2, 5, 8 17 00-18 00 2点 グループ 1, 6, 7 18 00-19 00 グループ 3, 4 19 00-20 00 第4試合 グループ 2, 5, 8 21 00-22 00 3点 グループ 1, 6, 7 22 00-23 00 グループ 3, 4 23 00-24 00 コマンド バトル中にできる行動はレギュラーコマンド、サブメンバーコマンドの項を参照。 コンボボーナス 他のメンバーが攻撃したあと、(攻撃ボタンに「コンボチャンス」の文字があるときに)攻撃を行うと「コンボ」が発生し,ダメージが微量増加する。 5回コンボが繋がるたびにボーナスBP(コンボボーナス)が得られる。 ※コンボボーナスの値は、敵レギュラーの戦闘力で決まる(戦闘力合計/2000で最大値9999。ただし召喚効果によっては10000以上のボーナスを得ることも可能)。 合体技 異なる職種で10分以内に必殺技を発動!→ 合体技となる!! 他のメンバーが必殺技か魔導光線を打ったあとに、(必殺技ボタンに「合体チャンス」の文字があるときに)必殺技または魔導光線を放つと「合体技」となり、通常よりも大きな(ブーストされた)ダメージを発生させることができる。 合体チャンスを作るために、先に必殺技か魔導光線を打つことを「土台」「トス」「下地」などと表現することがある。 合体チャンスを作る職業と、合体技を打つ職業は、別の職業でなければならない。 合体チャンスは3回まで蓄積させることができる。 自動行動 チームバトルでは、試合中、自動的に行われる行動があり、「自動行動」と呼ばれる。 自分がレギュラーの時、自動行動時に気絶していたら、「自動回復→ 自動攻撃」が行われ、気絶していなかったら「自動攻撃」が行われる。( ヘルプ「自動行動とは?」 参照) 自動行動のタイミングは以下の通り。 先攻/後攻 レギュラー順位 5位 4位 3位 2位 1位(エース) 先攻チーム 経過時間 6分経過時 18分経過時 30分経過時 42分経過時 54分経過時 残り時間表示での換算 0 54 0 42 0 30 0 18 0 06 後攻チーム 経過時間 12分経過時 24分経過時 36分経過時 48分経過時 00分経過時 残り時間表示での換算 0 48 0 36 0 24 0 12 0 00 ランキング 順位のポイントは以下の3つ。 勝ち点が多いチームが上位 勝利数が多いチームが上位 獲得BPの高いチームが上位 ランキング報酬 リーグ順位 ドラゴンメダル獲得枚数(S級) 1位 ドラゴンメダル ×50 2位 ドラゴンメダル ×45 3位 ドラゴンメダル ×40 4位 ドラゴンメダル ×35 5位 ドラゴンメダル ×30 6~10位 ドラゴンメダル ×25 11~20位 ドラゴンメダル ×15 21~30位 ドラゴンメダル ×10 31~40位 ドラゴンメダル ×7 41~50位 ドラゴンメダル ×5 51~位 宝箱 ×30 得られた「ドラゴンメダル」は「ドラゴンメダル交換所」にて任意のアイテムと交換できる。 【全期統一リーグ以降】 順位 Sクラス Aクラス Bクラス Cクラス Dクラス Eクラス Fクラス Gクラス Hクラス 1位 1000 400 300 2位 1200 1000 900 400 300 3位 1100 950 850 350 250 4〜10位 1000 900 800 300 200 11〜20位 800 720 640 240 160 21〜30位 600 540 480 180 120 31位〜 500 450 400 150 100 各クラス1位のチームはドラゴンメダルに加えてドラバト出場権が得られる。 ドラゴンバトル 同じグループのリーグ戦1位チーム(S級のみ)が代表となってレッドドラゴンと対戦する。 開催時間は"土曜日 22 00-23 00"となっている模様。 ドラゴンバトルに勝利すると、「ドラゴンメダル×10枚」がリーグ戦とは別に付与される。 ※ドラゴンバトルでは5人目の自動行動が発生しない。 観戦者 リーグ戦2位以下チームのメンバーは「観戦者」として参加可能で、自リーグ1位チームの応援が出来る。 15分おきに3回発生するウェーブタイムには、「ウェーブ」コマンド(技P 30P消費)「エール」コマンド(技P 30P消費)を使用出来る。 100ウェーブ、100エールごとに代表チーム一人がパワーアップする。(ウェーブは100ウェーブで次の一撃の威力が倍増する。エールは100エールで気絶するまで防御・技防御がアップする) ウェーブを行うと、ウェーブ報酬として「冒険牛乳×5個」を獲得できる。 自リーグの1位チームがドラゴンバトルに勝利すると、追加で「勝利のお守り×2個」を獲得できる。 ドラゴンメダル交換所 「メダル交換」アイコンよりドラゴンメダル所持数に応じて、任意の武具やアイテムと交換出来る。 交換アイテム名 アイテム名詳細 必要ドラゴンメダル数 覇王セット 覇剣"自キャラ名"、覇槍"自キャラ名"、覇弓"自キャラ名"、覇兜"蒼穹"、覇套"坤豪" (全てコスト35,SSR) 各300個 輝竜セット 輝竜の鉤剣、輝竜の鱗槍,輝竜の脈杖,輝竜顔,輝套竜 (全てコスト28,SSR) 各150個 天竜セット 天竜の鉤剣、天竜の鱗槍,天竜の脈杖,天竜顔,天套竜 (全てコスト22,SSR) 各50個 冥竜セット 冥竜の鉤剣、冥竜の鱗槍,冥竜の脈杖,冥竜顔,冥套竜 (全てコスト22,SSR) 各50個 緋竜セット 緋竜の鉤剣、緋竜の鱗槍,緋竜の脈杖,緋竜顔,緋套竜 (全てコスト22,SSR) 各50個 ドグマセット ドグマリートゥス、ドグマモニタム,ドグマスクリプトラ,ドグマシグナバリス,ドグマロクロ (全てコスト20,SR) 各20個 百鬼セット 百鬼の骸剣、百鬼の骸槍,百鬼の骸杖,百鬼の骸角,百鬼の骸装 (全てコスト20,SR) 各20個 ウサギのきぐるみセット ウサギのかぶりもの,ウサギのきぐるみ (全てコスト15,R) 各10個 ミケネコのきぐるみセット ミケネコのかぶりもの,ミケネコのきぐるみ (全てコスト15,R) 各10個 虹色武具セット 虹色の剣,虹色の槍,虹色の杖,虹色の兜,虹色の鎧 (全てコスト99,強化) 各50個 黄金武具セット 黄金の剣,黄金の槍,黄金の杖,黄金の兜,黄金の鎧 (全てコスト99,強化) 各25個 白銀武具セット 白銀の剣,白銀の槍,白銀の杖,白銀の兜,白銀の鎧 (全てコスト99,強化) 各10個 コメント 名前
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ルイズ達一行は盛大な宴の最中に居た ラ・ロシェールでの傭兵の奇襲、アルビオンへと向かう船上での空賊の襲撃を切り抜けたルイズ達は 王党派最後の拠点であるニューカッスル城にまで辿り着いていた (何かある度にディアボロが再召喚される羽目になったのは言うまでもない、だがお陰で誰一人欠ける事無くここまで来れていた) だが辿り着いた時にはすでにニューカッスル城は5万を数える貴族派の軍勢に包囲されており、 貴族派の宣言した総攻撃により落城そして王党派の滅亡は避けられ得ぬものとなっていた ゆえに王党派は勝利が得られぬのならば、華々しき敗北によって義務を果たし名誉を守らんとすべく決戦を挑もうとしていた 宴は死を覚悟した者達の別れの宴なのだ 「名誉ってそんなに大事なものなの? 愛しい人を残してまで死を選ぶことに価値があるの? 分からない、全然分からないわ」 ウェールズ王子の死の決意に翻意を促すも退けられ、気落ちしたルイズは傍らに立つディアボロに問い掛ける 「他国の侵略を防げなかった無能としてはそれしか縋る物が無かったということだ、意地もあるだろうがな」 「意地?それに侵略って、内乱の筈でしょ」 「己が犠牲になれば貴族派はトリステインに対して開戦する理由を得られない、 それが愛する女に出来る唯一の事だとでも考えているのだろう、無駄な事だ 物資の流れからして貴族派に外国が介入していることは明らかだ、その行動方針も含めてな」 ディアボロは今まで得た情報から導き出した推論を馬鹿にした態度で語る 「じゃあ殿下にそのことをお伝えすれば…」 「それこそ無駄だ、意固地になるだけだろう」 「どうしろっていうのよ!」 「普段私にしている様に命令して見れば如何だ」 「命令…、そうか国王陛下なら…」 ディアボロの皮肉から閃いたルイズはすでに部屋に下がったアルビオン国王ジェームズ一世に謁見すべくその場を駆け出した 国王の部屋を前にしてルイズは弾む息を抑えていた 首尾よく国王を説得出来たなら、ウェールズ王子の命を助ける事が出来る アルビオンの滅びを止める事は出来ないが、悲しみを一つ減らす事が出来る 私はその為に此処に来た その為の行いを止める事は困難から逃げる事を意味する、それは貴族である事の否定だ それだけは嫌だ 困難に立ち向かいけして逃げない者こそ貴族なのだから そう考えながら扉を叩こうとしたルイズを呼び止める声がした 「ルイズ」 ルイズが振り向いた先には婚約者がその姿を見せていた 「ワルド、どうしたの」 「明日この城の聖堂で結婚式を挙げよう 立会人はウェールズ王子にお願いしてある、快諾して頂いたよ なにそんな大仰なものじゃない、気持ちを確かめ合うといった程度のものだ 正式な結婚式はトリステインに戻ってから君の両親の前でやりたいからね」 それだけ言うとワルドはルイズの返事を待たずに与えられた部屋へ戻っていった ルイズはしばし呆然とワルドが歩いていった先を眺めていた 予告された総攻撃の刻限が迫る中、ニューカッスル城の聖堂には美しき花が咲いていた 花の名はルイズ、花嫁の衣装を身に着けたルイズは見る者にため息を突かせぬには居られぬ程美しかった 「まさかルイズに先を越されるとわね」 「綺麗」 「馬子にも衣装だな」 3人の参列者は当初王党派最後の船に乗り城を離れる筈だったが、タバサの風竜に乗れば良いという事でこの場に残っていた 式は結婚の宣誓まで進んでいた 立会人を務めるウェールズがワルドに尋ねる 「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド 汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして妻とする事を誓いますか」 「誓います」 ワルドの返事を確かめ、続いてルイズに尋ねる 「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 「殿下」 唐突にウェールズの言葉をルイズが遮った 「私はこれ以上この式が進む事を望みません」 「ルイズ、何を、何を言っているんだ?」 動揺を顕わにしたワルドがルイズに詰め寄る 「ワルド、貴方は今回の旅の目的を知っている筈よね、それに掛ける私の思いも でも貴方はそれを無視したわ、私の事を愛していると口で言いながら何か他の目的の為に動いているかの様に」 きっぱりとルイズが告げる 「だからワルド、私は貴方との結婚を望みません」 ルイズの言葉を受けたワルドはよろめく様に一歩下がる 「ルイズ、僕のルイズ、君がそんなことを言うなんて有り得ない、君は僕のものなんだ 君の力は、まだ眠っているだけの力は、誰よりも素晴らしいものなんだ、それは僕の為に」 「私の心も体も力も私の意志の下にあるわ、私が共に在りたいと願うのは私の意志と共に在ってくれる人 貴方の事をそうだと思っていたけれど違ったわ、貴方は自分の事しか考えていないもの、だから嫌、絶対に嫌」 決定的な拒絶を受けたワルドは顔を俯かせ低い声で呟いた 「そう確かに僕には僕の目的があった、君とは異なる3つの目的がね 一つ目は君だ、君の持つ力は何時か僕に必要になる筈だった 二つ目はアンリエッタ王女の手紙、レコン・キスタにとって絶好の材料だからね 三つ目は」 そこまで言うとワルドは杖を引き抜き閃光の二つ名に恥じぬ速度で呪文を唱えると後ろに立つウェールズに向かって突き刺した 「ウェールズ王太子の命!」 だが、 (手応えが無い!?) 杖はウェールズに突き刺さるどころか何も無い空間を虚しく灼いていた ウェールズの姿を求めて周囲を見回すと王子はルイズと共に凄まじい速さでワルドから離れていた (違う、二人が動いているのではない、これは自分が…) 自分の身に起きている事態を把握すべくワルドは自分の体が向かっている方向に顔を向けた すると参列者の席に座るルイズの使い魔の顔が見えた (イ、イカン、このままでは) ズッキュゥゥーーン! ■今回のボスの死因 ワルドのエアニードルに貫かれて死亡 ■おまけのワルド 花嫁と濃厚な間接☆キッス